若者が見るカーボンプライシング
~カーボンプライシングの現況と論点~
新年度最初の勉強会では、国が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中で掲げるカーボンプライシングについて、メンバーによる報告を基に団体内で意見交換を行いました。
まず始めに、環境税の意義を「社会的共通資本の維持管理手段」として捉え、その性格を「外部不経済の内部化による環境水準の底上げ」と「社会的共通資本の維持管理を目的とする財源の公正な配分・調達」という二面性に認め、理解の整理を行いました。加えて、近時の炭素税に関する議論では、イノベーションの促進、国家による産業政策としての側面が強いように見受けられ、日本における「成長戦略に資する」限りでの対策において、環境税が真に環境目標の達成に貢献しうるか否かについては客観的に分析する必要があるとの指摘もありました。
次に国内において導入が期待されるカーボンプライシングを大きく「炭素税」と「排出量取引」に二分し、それぞれの意義や長所・短所の比較、ポリシーミックスについてメンバー間で意見を共有しました。「炭素税」については、上流課税と下流課税の両ケースにおいて行動変容を促す対象と行政コストなど一長一短がある一方で、「排出量取引」は、炭素価格を「排出枠」の需要供給バランスの市場により決定し、総排出量は政府の上限設定に依存するため、排出総量の確実な削減に繋がる一方で上流下流両段階において企業・行政の負担が大きくかかることが考えられるとの意見が示されました。「排出量取引」については無償・有償割当の区別やLCAの観点から見る整合性など様々な課題が見受けられ、今後の勉強会でより深堀していけたらと思いました。また、ポリシーミックスについては不確実性や取引費用を加味し、これら両制度のハイブリットを模索することで、安定性と脱炭素インセンティブを維持し、公平性を実現する制度設計の大切さを学びました。欧州で先行していると考えられる両制度のポリシーミックスや互いの住み分けについては次回の勉強会で分析し理解を深めていきたいと思います。
最後に国際的なプライシングにおける炭素リーケージ(炭素効率の低い輸入品による国内市場の縮小、炭素制約の差異に起因する産業流出)を防止する為の国境調整措置についてWTOルールとの整合性の観点から報告してもらいました。GATT(関税および防疫に関する一般協定)の諸規定において、今の条文では内国民待遇義務違反(輸入品に適用される待遇は、国境措置である関税を除き、同種の国内産品に対するものと差別的であってはならないという問題)が問題となる可能性があることや、国ごとの条件に起因する排出量抑制コストの差異により最恵国待遇義務違反(他国の輸出産品との比較において当該国の輸出産品が不利におかれてはいけないという問題)の可能性があること、また有限天然資源としてのGHG濃度が低く保たれた大気の保存という目的との実質的な関連性や途上国も歩調にも合わせた交渉の適切性が確保されていて、国境調整措置が無差別原則の例外として認められるかなど、WTOルール下における国際的なプライシングの制度設計の課題などを学びました。
初回から少々深めに切り込む会となりましたが、多様な学生が集うCYJならではの勉強会となりました。次回の勉強会もとても楽しみです。
今後も勉強会や実地調査の模様などをお伝えしていければと思います。
では、次回のブログでお会いしましょう。
文責:古賀
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